「言葉のすれ違い」にどう向き合うか

目次
- ○ 国語力の変化と、これからの時代に必要な「非認知能力」
- ・1. 「察する文化」の変化と、コミュニケーション環境のリアル
- ・2. 知識としての「認知能力」以上に問われる「非認知能力」
- ・3. 迎合でもハラスメントでもない「言葉のチューニング(折り合い)」
- ・🪢結び:すれ違いを「対話」のきっかけに変えていく
国語力の変化と、これからの時代に必要な「非認知能力」
最近、SNSで中学受験塾・日能研の広告シリーズ「シカクい頭をマルくする。」(2026年10月掲載・日本大学中学校の国語の入試問題)が話題になっていました。
「千円弱」「千円強」という言葉の本来の意味をめぐり、登場人物の太郎と花子が会話する問題です。太郎が辞書で正しい意味(弱=少し少ない、強=少し多い)を確かめ「『〜強』だよ」と指摘する文脈から、実際に食べたランチの金額を読み解くという、シンプルですが本質的な国語の問題です。
しかしSNS上の反応を見ると、本来の意味や文脈とは異なる受け止め方や解釈の揺れが見られ、大きな議論になっていました。誰かを批判したいわけではありません。ただ、大人であっても提示されたテキストや文脈を正確に読み解くことの難しさを実感させられると同時に、「年代を問わず、社会全体で国語力や文章の行間を読み取る機会が薄れているのかもしれない」と考えさせられる出来事でした。
こうした言葉のギャップは、ビジネスの現場でも起きています。メールの句点(。)に威圧感を感じるとされる「マルハラ(マルハラスメント)」や、電話対応を極度に恐れる若手社員の増加など、コミュニケーションのすれ違いに頭を悩ませる場面は少なくありません。
1. 「察する文化」の変化と、コミュニケーション環境のリアル
本来、日本は「言わなくてもお互いに察し合う(ハイコンテクスト)」傾向が強い文化だと言われてきました。
しかし、SNSやチャットツールの普及によって短文や絵文字・スタンプでのやり取りが日常化し、長文の文脈(コンテクスト)や相手の意図をじっくり読み解く体験自体が減少しつつあります。
さらに近年では、発達特性や認知の多様性が可視化され、「誰もが自分と同じ前提(暗黙の了解)で理解できるはずだ」という思い込みが現場で通用しづらくなっている側面もあります。
教育の現場でも、デジタル教科書の導入や新たな学びの拡充が進む一方で、「基礎的な読解力や文脈を読み解く力をいかに育むか」という課題が議論されています。環境の変化により、年代を問わず「すれ違い」が起きやすくなっているのが今の私たちのリアルなのかもしれません。
2. 知識としての「認知能力」以上に問われる「非認知能力」
言葉の正しい定義や文法といった知識(認知能力)はもちろん大切です。しかし、コミュニケーションの現場で真に求められているのは、「非認知能力(他者への共感・心理的安全性・自己統制・関係構築力)」の強化ではないでしょうか。
メールの句点ひとつに怯えてしまったり、電話でのリアルタイムなやり取りを避けたりする傾向の背景には、単なる「言葉を知らない」こと以上に、「失敗や摩擦を極度に恐れてしまう心理」や「自分と異なる相手と向き合う体験の不足」が隠れています。
言葉の定義だけに頼るのではなく、「自分と相手は違う前提(OS)で生きているかもしれない」という想像力を持ち、お互いの感情や意図に寄り添う姿勢(非認知能力)こそが、すれ違いを埋める鍵になります。
3. 迎合でもハラスメントでもない「言葉のチューニング(折り合い)」
相手の国語力や価値観を「時代遅れだ」「今の若い世代は…」と一方的に責める(ハラスメント)のも、逆に「傷つけないように全て相手の好むやり方に合わせる」と諦める(迎合)のも、根本的な解決にはなりません。
必要なのは、双方が歩み寄る「言葉のチューニング(折り合い)」です。
伝える側(上司・ベテラン): 「言わなくても察して当たり前」に頼らず、曖昧な表現を避け、目的や意図をわかりやすく言葉にして手渡す(愛ある明文化)。
受け取る側(若手・新入社員): 表面的なニュアンスだけで感情的にならず、「〇〇という理解で合っていますか?」と意図を確かめる対話の姿勢を持つ(対話の自立)。
🪢結び:すれ違いを「対話」のきっかけに変えていく
言葉の理解のズレや表現の違いに直面したとき、「なぜ伝わらないのか」と嘆くのではなく、「お互いの前提がどう違うのだろう?」と問い直してみること。
このギャップや違和感こそが、相手を深く知るための大切な「気づき」であり、信頼関係を深めるスタート地点になります。
どれほど時代やツールが変わっても、人と人とが温かく繋がり、共に成長していくために必要なのは、相手の可能性を信じて言葉を交わす「対話」の力です。一人ひとりが非認知能力を高め、勇気づけ合える関係性を、まずは目の前の一言から育んでいきたいですね。